社会・文化考察リーダーシップ

「コスパ」と「冷笑」がチームを殺す。明治末期と酷似した現代で、リーダーが取り戻すべき『気概(Thymos)』について

明治末期と現代の閉塞感を重ね合わせたイメージ

「頑張るのってダサくない?」「それやって何の意味があるの?」。現代のチームに蔓延する閉塞感と冷笑的な空気。思想家・先崎彰容氏は、今の日本が「明治末期」に酷似していると指摘する。SNSによる公私の消失、そして「気概(Thymos)」を失い、効率と身体的快楽(サウナ・健康)だけに逃げ込む「コンビニ人間」化した私たち。バラバラになった個人を再び「公(チーム)」へ接続し、熱狂を取り戻すための処方箋を考察する。

はじめに:なぜ「頑張る人」が笑われるのか?

チームのために声を出す選手が「意識高い系」と笑われる。自分の数字(スタッツ)は気にするが、チームの勝敗には淡白。

最近、グラウンドやオフィスでそんな空気を感じることはありませんか?PIVOTの動画で、思想家の先崎彰容氏は「現代は明治末期に似ている」と語ります。日露戦争という大きな目標(公)を終え、社会が固定化し、個人がバラバラに自分の利益や内面だけを見始めた時代。

これはまさに、今のスポーツ現場や組織が抱える病理そのものです。

1. チームを蝕む「3つの人間タイプ」

動画では、明治末期(そして現代)の人間を3つに分類しています。これをチームに置き換えると非常によくわかります。

  • 英雄豪傑型(絶滅危惧種):「チームを勝たせるために俺がやる」という、公(チーム)のために自己犠牲を払えるリーダータイプ。
  • 成功青年型(個人主義):「プロになれればいい」「自分の打率が上がればいい」。チームへの関心はなく、個人の富や成功(コスパ)だけを追求するタイプ。
  • 冷笑型・煩悶型(評論家):自分では動かず、頑張る人を斜に構えて見て、「それ意味なくない?」と冷や水を浴びせるタイプ。SNSでの誹謗中傷や、組織の批判だけをする層。

今、組織が弱いのは、1が減り、2と3が圧倒的に増えているからです。

2. 「気概(Thymos)」を失ったコンビニ人間

なぜ、私たちは熱くなれないのでしょうか?先崎氏は、現代人が「気概(Thymos)」を失い、「コンビニ人間」になっていると指摘します。

  • コンビニ人間:効率よく栄養(メリット)だけを摂取し、摩擦や面倒な人間関係を避ける。
  • 気概(Thymos):誰かのためにリスクを背負い、高い目標のために自己犠牲を払うことで得られる「誇り(尊厳)」。
効率化による無関心と、自己犠牲による尊厳の対比図

現代人は、気概を失った空虚さを埋めるために、サウナで「整う」ことや、過剰な健康志向(身体性)へ逃げ込んでいます。しかし、どれだけ体を整えても、魂までは燃え上がりません。

私たちが本当に飢えているのは、美味しい食事ではなく、「何かに命を燃やす手応え」なのです。

3. リーダーの仕事は「あえて立ち止まる」こと

では、どうすればいいのか?先崎氏は「みんなが走っている時に、あえて立ち止まるのが真の保守(知性)だ」と言います。

チーム全体が「コスパ」「タイパ」「個人の数字」へと雪崩を打って走っている時、リーダーだけは立ち止まり、こう問いかけなければなりません。

「で、その先に何があるの?」

「俺たちは何のために集まっているんだっけ?」

効率の波に抗い、面倒くさい「対話」や「泥臭い練習」という「公(チーム)の時間」を取り戻すこと。それが、冷笑的な空気を打ち破る唯一の方法です。

結論:熱狂は「非効率」の中にしかない

「コスパが悪い」と切り捨ててきたものの中にこそ、実は人間が生きるための「熱源」がありました。

  • 無駄に見えるミーティング。
  • 誰かのためにカバーに入る動き。
  • 勝利後のハイタッチ。

これらは全て非効率です。しかし、この「愛すべき非効率」のために汗を流せる人間だけが、冷めた時代の中で「気概」を持って生きることができるのです。