スキル習得 / コーチング論

「感覚」と「事実」のズレを埋めろ。スランプを脱出し、覚醒するための"翻訳"技術

論理的なデータと直感的なイメージの融合を示す図

はじめに:脳は平気で嘘をつく

「バットを上から出しているつもりです」
そう言う選手のフォームをハイスピードカメラで撮ると、バットが下から出ていることは日常茶飯事です。

人間の脳(感覚)は、平気で嘘をつきます。
「感覚(イメージ)」と「事実(データ)」の乖離(ギャップ)。
これこそが、選手が伸び悩んだり、原因不明のスランプに陥ったりする最大の原因です。

1. 「事実」は残酷だが、道標になる

ラプソードやブラストモーションといった計測機器、あるいはスマホの動画。
これらが提示するのは、感情のない「冷酷な事実(Fact)」です。

「回転数が落ちている」
「スイング軌道が下がっている」

まず必要なのは、自分の感覚を疑い、この事実を直視することです。
「調子は悪くないはずだ」という思い込み(感覚)を捨て、現在地(事実)を知る。これがスタートラインです。

2. データだけでは「体」は動かない

しかし、ここで陥りやすい罠があります。
「スイング角度をあと5度上げよう」と数値目標を立てても、人間の体はその通りには動きません。
なぜなら、人間は「数値」ではなく「感覚」で体を操作しているからです。

ここで必要になるのが、事実から感覚への「翻訳」です。

  • 事実: 「バットが下から出ている(事実)」を修正したい。
  • 翻訳(試行錯誤): 「大根切りをするイメージ(感覚)」で振ってみたら、映像ではちょうど「レベルスイング(事実)」になった。

この場合、この選手にとっての正解は、データ上の「水平」ではなく、感覚上の「大根切り」なのです。

感覚と事実のすり合わせ(キャリブレーション)のサイクル図

3. 一流選手の「ズレ」は極端に小さい

イチロー選手や大谷選手のような一流アスリートは、この「感覚」と「事実」のズレが極端に小さいと言われています。
「こう動かそう」と思った通りに、ミリ単位で体が動いているのです。

彼らは、才能だけでそうなったのではありません。
日々の練習で、「今の感覚だと、映像はこうなっているはずだ」という答え合わせを何千回、何万回と繰り返してきたからこそ、高解像度の身体感覚を手に入れたのです。

結論:データを「感覚」に溶かし込め

データ(事実)に使われてはいけません。
データは、あなたの感覚(イメージ)を磨くための「砥石」です。

  1. 事実を見る: 映像や数値でズレを確認する。
  2. 感覚を探す: 理想の数値が出る「独自の感覚(言葉やイメージ)」を見つける。
  3. 感覚を信じる: 試合ではデータを忘れ、磨いた感覚だけに没頭する。

このサイクルを回せる選手だけが、テクノロジーを味方につけ、限界を突破できるのです。