マインドセット / 指導者論

選手を潰す「期待」と、人を育てる「理想」。「理想は高く、期待は低く」がもたらす究極のマネジメント

高い理想を共有しつつ、足元の現実には寛容に向き合う指導者と選手のイメージ

はじめに:指導者の「イライラ」はどこから来るのか?

「教えた通りに動いてくれない」
「あんなに練習したのに、試合でエラーをした」

指導現場にいると、日々このようなフラストレーションを感じることがあるでしょう。 しかし、そのイライラの根本的な原因は、選手の能力不足ではありません。指導者自身の「期待値の高さ」にあります。

人を育てる上で、心に留めておくべき強力なマインドセットがあります。 それが、「理想は高く、期待は低く」です。

1. 「期待」は、他者コントロールの裏返し

まず、「期待」という言葉の罠について考えます。 「期待しているよ」という言葉は一見ポジティブですが、実は「私の思い通りに動いてほしい」というコントロール欲求の裏返しです。

  • 期待が高い状態: 「これくらいできて当然だ」と思い込む。
  • 結果: できなかった時に「裏切られた」と感じ、怒りや落胆が生まれる。

選手は、指導者の期待を満たすために野球をしているのではありません。 期待を押し付けられた選手は、失敗を恐れて萎縮し、自ら考える力(主体性)を失っていきます。日々の行動や結果に対する「期待」は、思い切ってゼロに近づけるべきです。

2. 「理想」は、決して下げてはならない

「期待をしない」というと、「選手を見捨てるのか」「レベルの低いチームで妥協するのか」と誤解されるかもしれません。 ここで重要になるのが「理想(ビジョン)」です。

期待を下げる一方で、目指すべきチームの姿、あるいは自立した人間としてのあるべき姿(人間力の要素)といった「理想」は、空高く掲げ続けなければなりません。

  • 理想が高い状態: 「最終的にこういうチーム・人間になろう」という北極星が明確にある。
  • 結果: 現状がどうであれ、進むべき方向がブレない。

理想は、他者に押し付けるものではなく、「全員で共有する目標(道標)」です。

期待を押し付ける指導と、理想を共有する指導の構造的な違いを示す図解

Expectation vs Ideal

左(Bad):

「期待(Expectation)」が重いリュックサックとして選手の背中にのしかかっている図。

右(Good):

「期待」のリュックを下ろし、指導者と選手が並んで、遠くの山の頂上「理想(Ideal)」を一緒に指差している図。

3. 「理想は高く、期待は低く」のメカニズム

この2つを掛け合わせると、どのような指導になるでしょうか。

「いつか必ず素晴らしい選手(人間)になると信じている(=高い理想)。しかし、今日の練習でいきなり完璧にできるとは思っていない(=低い期待)。」

このスタンスに立つと、指導者のアプローチは劇的に変わります。

  • 失敗に寛容になる: 最初から「できないだろう」と思っていれば、エラーに対して怒るのではなく、「どうすればできるか」を冷静に分析できます。
  • 小さな成長を喜べる: 期待値がゼロベースであれば、少しでも前に進んだだけで「よくやった!」と心から称賛できます。

結論:北極星を指さし、足元を照らす

人間力を鍛える指導の本質は、選手を無理やり引きずり回すことではありません。

遥か遠くにある「理想」という北極星を指さし続けること。 そして、選手が泥だらけになりながら進む足元を、「期待」という重荷を背負わせずに、ただ静かに照らしてやることです。

「理想は高く、期待は低く」。
今日からグラウンドに立つ際、この言葉を胸に刻んでみてください。選手を見る目が、そして自分自身の心が、驚くほど軽くなるはずです。

ビデオpodcast

YouTubeで視聴する