指導理論 / マインドセット

すぐに「正解」を求める選手は伸びない。タイパ時代の罠『わかりみ』を捨て、スポーツにおける『おもしろみ(思考)』を取り戻せ

「コーチ、どうすれば打てますか?」。手っ取り早く正解を求める選手が増えている。現代は動画やSNSで「わかりやすい答え(わかりみ)」が溢れるタイパの時代だ。しかし、与えられた正解で「分かった気」になった瞬間、人間の思考は停止する。PIVOTのメディア論で語られた「わかりみ(受動)」と「おもしろみ(能動)」の概念をスポーツ指導に置き換え、自ら泥臭く身体感覚(一次情報)を掴み取る『能動的な練習』の重要性を説く。

与えられる「わかりみ」と、自ら掴みに行く「おもしろみ」の対比イメージ

はじめに:「YouTubeを見れば上手くなる」という錯覚

「コーチ、どうすればもっと速い球が投げられますか?」
最近、このように「手っ取り早い正解」をすぐに求めてくる選手が増えたと感じませんか。

今の時代、YouTubeを開けばプロ野球選手や専門家が「〇〇のコツ」を分かりやすく解説してくれます。選手たちはそれをスマホで見て、「なるほど、分かった!」と満足します。

しかし、残念ながらそれだけで野球は上手くなりません。
先日、PIVOTの動画でライターの稲田豊史氏が語った「メディアにおける『わかりみ』と『おもしろみ』の違い」が、この現象の真の恐ろしさを突いていました。

1. 「わかりみ」は、思考を停止させる

現代のテキストや動画メディアで最もウケるのは、共感しやすく結論が早い「わかりみ」の深いコンテンツです。
「これさえやればOK!」という断定的な正解。これを得た瞬間、人間は気持ちよくなり、「考えること(思考)」を完全に停止してしまいます。

スポーツの指導でも同じことが起きています。
指導者が手取り足取り「ここはこう動かせ」と正解(わかりみ)を与えすぎると、選手は受動的な「消費者」になり下がります。自分で「なぜ打てないのか?」を深く考察する能力が奪われてしまうのです。

2. 「おもしろみ」は、思考を開始させる

一方、読書のような能動的なメディア体験には「おもしろみ」があります。
問いだけが投げかけられ、正解が書かれていない。少し負荷がかかり、面倒くさい。しかし、読んだ後に「これはどういうことだろう?」と思考が開始されます。

練習とは本来、この「おもしろみ」であるべきです。

受動的な練習(わかりみ):
言われたメニューをこなし、正解を与えてもらう。

能動的な練習(おもしろみ):
自分の感覚とデータ(事実)のズレに悩み、仮説を立て、試行錯誤する。

脳に負荷をかけ、自分で問いを立てる。この面倒くさいプロセス(思考の開始)からしか、本物の技術は身につきません。

スポーツにおける情報の受け取り方と成長の相関図

3. AI時代のアスリートに残された「一次情報」

動画の中で、「生成AI時代に生き残るライターは、現場に足を運んで『一次情報』を取ってこれる人だけだ」という話がありました。

スポーツにおける「一次情報」とは何でしょうか?
それは、ネット上にある理論ではなく、「自分自身の身体を動かして得た、生々しい感覚(コツ)」です。
どれだけAIが進化し、動画で完璧なフォーム解説が見られるようになっても、あなたの身体の重心のズレや、指先にかかるボールの感覚をAIが代わりに感じることはできません。

結論:タイパを捨てて、泥まみれになろう

スポーツにおいて、「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「コスパ」を求めるのはやめましょう。
効率よく正解だけを知りたいなら、AIに聞けば数秒で答えてくれます。

しかし、グラウンドは「消費者」の居場所ではありません。
すぐには答えが出ないもどかしさを抱えながら、自分の身体という一次情報と向き合い、泥臭く「おもしろみ」を追求する。
その能動的な姿勢こそが、AIには絶対に代替できない、アスリートとしての「人間力」を育むのです。