はじめに:なぜ同じミスが繰り返されるのか
「エラーをするなと何度言ったら分かるんだ!」
「もっと気合を入れて営業しろ!」
現場で問題が起きた時、こうした指導(あるいは叱責)を繰り返しても、一向に事態が改善しないことは誰もが経験しているはずです。なぜ、同じミスが何度も繰り返されるのでしょうか。
それは、指導者が問題の「現象(Phenomenon)」しか見ておらず、その奥にある「構造(Structure)」に全く手をつけていないからです。表面的な現象に対していくら怒っても、それはただの「モグラ叩き(対処療法)」に過ぎません。モグラを叩けば、また別の穴から別のモグラ(新たな問題)が顔を出すだけなのです。
Phenomenon vs. Structure
対処療法(モグラ叩き)
根本治療(構造のデザイン)
1. 肉眼で見えるのは「現象」だけ
「現象」とは、結果として表に現れた事実のことです。三振をした、エラーをした、遅刻をした、言い合いになった。これらはすべて、認知脳(論理や視覚)で簡単に捉えることができる表面的な出来事です。
しかし、現象はあくまで「結果」であり、「原因」ではありません。三振をしたという現象の裏には、「足の裏から骨盤への連動性(アシカラダ)が崩れ、重心が浮き上がっていた」というバイオメカニクス的な構造的欠陥が隠れています。人間の肉眼ではどうしても打球やスイングの軌道という「現象」にばかり目を奪われますが、最新のテクノロジーやAIによる動作解析が真価を発揮するのは、まさにこの見えない重心のズレや連動性といった「構造」をあぶり出す時なのです。
2. 「構造」が生み出す必然
これは組織やチームの人間関係においても全く同じです。「若手がすぐに辞めてしまう(現象)」という問題に対し、「最近の若者は根性がない」と個人の性格のせいにしていては何も解決しません。
目を向けるべきは、組織の「構造」です。
- 1結果のみで評価され、プロセス(意図)が無視される評価構造になっていないか?
- 2失敗を恐れて「いい子」を演じざるを得ない、心理的安全性のない環境構造になっていないか?
構造が歪んでいれば、そこにどんなに優秀な人間を配置しても、必ず同じエラー(現象)が引き起こされます。「人は環境に同化する生き物」だと以前お話ししましたが、悪い構造(水槽)の中では、悪い現象が起こるのは「必然」なのです。
3. リーダーは「現象の評論家」から「構造の設計者」へ
現象に対して「それはダメだ」と正しいことを言うのは、ただの評論家です。私たち指導者やリーダーが本当にやるべき仕事は、現象から一歩引き、物事の根本にある「構造」を見抜き、それをデザインし直すこと(アーキテクトになること)です。
重心の崩れ(構造)に気づき、重力と調和する身体操作を指導する。
結果への恐怖(構造)を取り除き、「たわいもない時間」やハグによって、無条件に肯定される安全基地を創り上げる。
この水面下の「構造」さえしっかりと整えることができれば、私たちが無理にコントロールしようとしなくても、水面上には自然と美しい「現象(良いパフォーマンスや主体的な行動)」が次々と花開くようになります。
結論:目に見えないものに目を向けよ
問題が起きた時、感情的に反応するのをグッと堪えてください。目の前で起きている「現象」は、あなたに「構造の歪み」を教えてくれるありがたいサイン(アラート)に過ぎません。
現象に一喜一憂する脆さを捨てましょう。深く内観し、目に見えない身体の連動性や、チームの空気という「構造」にアプローチする。その根本を見つめる静かで深い眼差しこそが、複雑な世界をしなやかに生き抜くための、真の『人間力』なのです。

